チケット転売の経済学的考察

今日はこれに関して詳しく解説する話を書きます。

以下の前提を置きます。

チケットは差別化財であり、チケット販売者の独占市場である

これは妥当でしょう。アーティストはたった一人もしくは一組だからです。

需要と供給

以下より、上記のようなシンプルな需要と供給を考えます。前提知識として挙げておきます。

供給制約

ここで、以下の制約があると考えましょう。

会場の物理的制約により、供給量はQ*より小さい量にしかできない

この制約は、以下の背理法より妥当であると説明が付きます。

会場の物理的制約による供給制約が無いと仮定する。
ならば、均衡取引量Q*かつ均衡価格P*にてチケットを販売することが最も利益最大化になるため、チケット販売者はそうすることが合理的である。
そうなっていれば均衡価格P*で取引されているため転売の利ざやがなく、転売は発生しないはずである。
しかし現実には転売の利ざやがあり、転売は発生している。したがって会場には物理的制約があり、供給制約がある。

上記制約により、供給は緑色の線上になります。以下の図の通りです。

ここで、

赤色の点は「ここより高いとチケットは買わない」ということを意味し、

青色の点は「ここより安いとチケット販売による儲けが出ない」ということを意味します。

したがって、チケット販売者は、緑色の線上にて、赤点より下、青点より上の点にて販売することになります。

転売の利ざや

この図で、転売利益はどこから出ているかと説明すると、チケット販売者は青点付近の価格でチケットを販売し、転売屋は赤点付近の価格でチケットを二次販売しています。

この赤点と青点の差が利ざやとなっているのです。

逆に、先程の背理法のとおり、均衡価格であれば差がなくなるため、利ざやがなく、転売が発生しません。

ここで浮かび上がってくるのが、

なぜチケット販売者は赤点の価格で販売しないのか。そうすれば転売は発生しないし、チケット販売者が利ざやとなる部分を自らの儲けにできるのではないか。

という疑問です。

動学

鍵は、「動学」にあります。

動学とは簡単に言えば「時間的な要素を含めて経済分析する手法」であり、対義語は静学で意味はそのまま「時間的要素を含めず経済分析する手法」なのですが、この需要と供給分析は静学です。

需要曲線の導出においてもある一時の効用最大化からきますし、供給曲線の導出においてもある一時の利益最大化からきます。

つまり、このシンプルな需要と供給分析によって考察できることは、「ある一時点それのみにて考察できること」だけだ、ということになります。

言い換えれば、「長い目でみた考察ができない」ということになります。

均衡

以下の観点

  • ファン層はピラミッド的に表現できる。裾野が広いほど高くなり、熱いファンも増える
  • あまりにライブチケットが高いと、新規ファンが増えず裾野が広がらない

に立ちましょう。これは、「このアーティストちょっと気になるなーという顧客が初めてライブに行って感動してファンになる」はずだったところ、「高すぎてちょっと気になる程度では行けない。ファンじゃないと行けない。」になってしまうような事例を考えれば現実的に妥当だと考えられます。

上記観点にたつと、チケット販売者は

新規ファンを獲得できる程度には高すぎない価格で提供することで、短期的な利益は比較的少なくても長期的には利益が最大になるように動くのが合理的

となるのです。これは、比較静学では得られない観点です。

結果として、赤点ではなく、長期的合理性を求めて青点付近の価格で販売し、赤点で二次販売する転売屋の参入を招くことになります。

転売屋はなぜ悪か

転売屋はなぜ悪かというと、「チケット販売者の長期的合理行動」を利用して儲けるだけでなく、チケット販売者の長期的計画を踏み潰してしまい、経済厚生を損失するからです。転売が蔓延れば価格が高騰して新規ファンの獲得は難しくなるからですね。

各人が合理的行動をとった結果、経済厚生が最大化されない均衡にはまるという点で、市場の失敗と同類のものだと考えることができるでしょう。

市場の失敗

市場の失敗に関しては、ミクロ経済学の力を読まれることを強くおすすめします。

この話に納得いくかツイッターのアンケートをとったのですが、

市場の失敗は計画経済の論理であるという回答が少なからず得られました。

自由放任主義的な思想を持つことは自由なのですが、これは経済学という学問において主張されると誤りとなります。

自由経済は多くの領域で計画経済よりも経済厚生が高くなることが解明されてきましたが、ゲーム理論によって合理行動が経済厚生を損失することも解明されているのです。

ブロックチェーンが好きな人にはアナーキズムと親和性のある方もいる印象ですが、インセンティブ設計するにあたっては避けて通れない視点です。

自由主義と社会主義のイデオロギーや、ゲーム理論が解明した市場の失敗まで「ミクロ経済学の力」では解説されていますので、ぜひ一読ください。

結論

チケット販売者は「長期的に合理的な行動」をとっており、転売屋はその計画を踏み潰して経済厚生に損失をきたしているということになります。

「チケット販売者が非合理だから転売問題が発生している」との意見もありますが、物事を分析するにあたって、「~は非合理に動いている」という考えはまず捨てて入ったほうがいいと考えています。

日本の政策は若い世代にとって極めて非合理な意思決定がなされているようにしかみえませんが、これは投票権を持つ人口の多い世代にとっての合理的意思決定なわけです。

行動経済学的、心理的にはミクロな非合理性がよく発見されますが、世の中、知的な個人や組織体は案外合理的に動いていると考えたほうがいいのではないでしょうか。

経済学的な考え方をするにあたってこのような意味での謙虚さは必要だと思いました。

1/11追記

チケット転売の経済学的考察~余剰編~

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スタンスはこうです。