書評「ミクロ経済学の力」

先日

こういうツイートをしてましたが、今日はミクロ経済学の力がどういう本なのか紹介します。

著者

まずこの本の著者はどういう人かというと、東京大学大学院経済学研究科の神取道宏・教授です。

経歴としては

  • スタンフォード大学博士
  • ペンシルバニア大学助教授
  • スタンフォード大学助教授
  • 東京大学助教授
  • 東京大学大学院経済学研究科教授
  • EconometricSociety終身特別会員

から今に至るようで、文句なしのミクロ経済の専門家ですね。

対象読者

プロローグには、対象となりうる読者が羅列されています。

  • 経済学を学ぶ大学生・大学院生
  • 経済政策を担当するための知識や技術を身につけたい政治家・官僚
  • 国際標準な経済学の知識を持ちたい経済担当のマスコミ関係者
  • 経済学を体系的に学びたいビジネスパーソン
  • 日本の進路など、天下国家を論じてみたい人
  • シンクタンク等で経済分析を担当するエコノミスト
  • 経済学専攻ではないもしくはなかったが経済学を知っておきたい人
  • 知的好奇心にあふれた高校生

欲張りすぎか。(誉め言葉)

 

レベルとしては、学部中級~大学院初級までの内容をカバーしており、これら読者層には必要十分なものとなっています。

学部中級以上とありますが、微分から、ラグランジュ未定乗数法(わかればかんたん)まで補論でサポートされているため、高校の知識があれば経済学部初級の知識がなくとも十分通用します。というか、経済学部初級は経済学部中級以上で得られる結論を数式使わずにお絵かきで説明しているだけ。

 

これに加えて、個人的には読者層にはこれもつけたしておきます。

  • ブロックチェーンで暗号を使ったメカニズムデザインを考えるクリプトエコノミスト
  • トークンエコノミーをつくりたい思想家・起業家

 

トークンエコノミー関連では理論よりも直感が重視されがちですが、理論もある程度必要です。

行動する人は行動しない傍観者よりもいい動きをします(起業界隈ではここがクローズアップされがちです)が、行動する理論家はただ行動するだけの人よりも無駄のない行動ができます。

暗号使ったメカニズムデザインにミクロ経済学の知識が必要なのは、言うまでもないですね。

 

対象が非常に広いですが、なぜこれだけ広い層を対象にできるのか?

広い層を対象にできるようにした工夫の内容も、説明されています。

工夫

経済学の理論モデルは「包丁」であり、それを使った現実経済の説明や経済政策の立案は「料理」であると喩え、さらに既存の経済学本は包丁のカタログに終始しているだけでどんな料理ができるか不明瞭なものが多い、と指摘されています。

本書は、包丁のカタログに終始するのではなく、どんな料理ができるのか、つまりある理論をつかえばどういう経済現象を説明できたり、経済政策につながったりするのか、を明らかにすることを意識するという工夫がなされているわけですね。

 

この工夫を、本書は物理の教科書のストロボ写真にたとえています。

 

中学校の理科の教科書でも、高校の物理の教科書でもいいですが、どれも振り子がどう動くか、ストロボ写真があったはずです。

ものを斜め上になげると、どういう動きをするか(放物線)、ストロボ写真があったはずです。

 

でも従来の経済学の教科書は、ストロボ写真のない物理の教科書のように、つまらないものだったというわけですね。

 

本書ではストロボ写真に相当する「料理」を、かなり多く出してくれています。ここがかなりのおすすめポイントです。

 

事例一覧

この「料理」に相当する実際の事例がどれだけ紹介されているか、挙げます。

  • 価格転嫁と常識的議論の問題点
  • 政策評価:老人医療費保補償制度の問題点
  • TPPと農家への所得補償
  • 部品組み立て工場
  • 東北電力の費用曲線
  • 要素価格の国際比較
  • 日本の所得分配
  • 自社ビルでのレストラン経営
  • ピグー税の実例:ロンドン混雑税
  • 地球温暖化と排出権取引市場
  • 公共財の実例としての街灯
  • 原油価格の高騰と価格転嫁
  • 東北電力の規制価格
  • リニエンシー制度
  • 新技術の業界標準
  • 二大政党のマニフェスト
  • 道路交通量の予測
  • エスカレーターの右空け
  • サッカーのペナルティキック
  • 金融危機と銀行破綻処理
  • ユーロ危機
  • ガソリンスタンドの協調
  • 保険における「免責」の役割
  • MBA

政策からスポーツまで、幅広い事例が紹介されているということがわかるかとおもいます。

ペナルティキックですよ?笑

目次

では最後に目次のご紹介。

  • 序章・経済学の目的と方法
  • 第一章・消費者行動の理論
  • 第二章・企業行動の理論
  • 第三章・市場均衡
  • 第四章・市場の失敗
  • 第五章・独占
  • 第六章・同時手番のゲームとナッシュ均衡
  • 第七章・時間を通じたゲームと戦略の信頼性
  • 第八章・保険とモラル・ハザード
  • 第九章・逆淘汰とシグナリング
  • 終章・最後に、社会思想(イデオロギー)の話をしよう

第一章から第五章まで、古典的な市場理論です。本書によると、市場理論は成熟しきっており、最新の論文はゲーム理論ばかりだそうですが、基礎をしっかり身に着けるためにも市場理論を軽視しない、とのことです。

 

第六章から第七章はゲーム理論、第八章からは契約理論ですね。

すべて余すところなく、対象読者の人には必要な知識です!

 

↓以下は演習本です。興味のある方はどうぞ。

以上、ミクロ経済学の力(第一版)の書評でした。