みなさんこんにちは。
マスクに続いて一人あたり10万円給付ですが、これが”将来からの前借り”であるかどうかのくだらない議論が再燃してたりするのでまとめておきます。
この話題はYouTubeに出そうかなとも思ったんですがバランスシート書いたりするんでまずブログで書こうかなと。気が向いたら動画に起こすかもしれません。
政府の予算制約
政府の予算制約はちゃんと式で表すことができます。
\(t\)期の政府債務残高を\(B_t\)としましょう。 \(t\)期から1期たったときの政府債務残高は\(B_{t+1}\)と表すことができます。この\(B_{t+1}\)はいくらになるでしょうか。
当然ながら、税収分だけ政府債務は減るし、政府支出分だけ政府債務は増えます。
税収を、\(P_t T_t\)とし、政府支出を\(P_t G_t\)としましょう。\(P_t\)の意味はあとで説明します。
だから、
- \(B_{t+1}\)は\(B_t\)から\(P_t T_t\)を引いたものから成る
- \(B_{t+1}\)は\(B_t\)から\(P_t G_t\)を足したものから成る
と言えますね。他になにか政府債務の増減の要素はあるでしょうか?
ずばり、利子ですね。国債は利子を付けて返さないといけませんね。現実においては満期に利子ごとバーっと返す方式の借金もありますが、これは計算の上では毎期利子を加算していくのと同じになります。
名目利子率を\(i_t\)とすると、
- \(B_{t+1}\)は\(B_t\)から\(i_t B_t\)を足したものから成る
といえますね。
これらをまとめて式にすると次のようになります。
\(B_{t+1} = (1 + i_t) B_t + P_t G_t – P_t T_t\)利子分だけ増えて、政府支出分だけ増えて、税収分だけ減る。
しかし、ここで重要なポイントがあります。国債って、民間が保有してる国債と中央銀行が保有してる国債がありますよね。それらを分けて考えましょう。\(B_{P,t}\)が民間保有分、\(B_{CB,t}\)が中央銀行保有分です。
\(B_t = B_{P,t} + B_{CB,t}\)なんで分けて考えないといけないか。大きな理由があります。それは、
政府が中央銀行の持ってる国債に対して利子を支払っても、政府に利子が却ってくるルールがあるというのが現実だからです。
なので、
\(B_{t+1} = (1 + i_t) B_t + P_t G_t – P_t T_t\)は正しくありません。正確には、
\(B_{t+1} = (1 + i_t) B_t – i_t B_{CB,t} + P_t G_t – P_t T_t\)となるのです。中央銀行から利子払っても返してもらえる分は、除かないといけないのです。
よくある論争
よく、一人あたり10万円給付が”将来からの前借り”である という論に対して、”政府の負債は国民の資産だから問題ない”という応酬がなされてるのをみかけますね。
民間 | 政府 | 中央銀行 | |||
資産 | 負債 | 資産 | 負債 | 資産 | 負債 |
\(B_{P,t}\) | \(B_{P,t}\) | ||||
\(B_{CB,t}\) | \(B_{CB,t}\) |
“ポストケインジアンのストック・フロー・一貫モデル(Stock Flow Consistency Model; SFC model)”に従って、バランスシートっぽく貸借関係を表記すると上のような図になります。
確かに”バランスシート上では政府の負債は国民の資産”です。さすがにこれに反対する人はいないでしょう。これに反対する人はさすがに会計原則が違う世界で生きてるのだと思います。。。
しかし世の中で論争があるということは、こんな単純な話では解決しないなにか問題があるからにほかなりません。
それはなにかというと、”国民の資産の残高が指数関数的に増加してったらどうすんの?”という話です。
というのも、\(i_t\)はゼロより大きな値ですから、一切政府債務(国民資産)を減らす行動を採らなかった場合、雪だるま式に増えていくことになります。
いくら資産といえども、指数関数的に増加したらなにか影響があるに違いありません。その問題をみなければいけないのです。それに対して”政府の負債は国民の資産”と念仏を唱えてもなにも解決しないのは、火を見るよりも明らかでしょう。
雪だるま式増加の弊害を防ぐ策①
えー。いきなりですが、実質GDPの成長率を、\(g_t\)とおきましょう。実質GDPを\(Y_t\)とすると、\(Y_{t+1}=(1 + g_t) Y_t\)となります。
また、物価上昇率を、\(\pi_t\)としましょう。さっきからでてきていた\(P_t\)は物価ですから、\(P_{t+1} = (1 + \pi_t) P_t\)となります。
ここで、名目GDPは\(P_t Y_t\)になります(そう決まってます)から、名目GDP成長率は\((1 + g_t) (1 + \pi_t)\)となりますね。\(P_{t+1} Y_{t+1} = (1 + g_t) (1 + \pi_t) P_t Y_t\)ということです。
ここで、大事なポイント。名目GDP成長率がゼロより大きいなら、名目GDPは雪だるま式に増えていきますよね?だって\(P_{t+1} Y_{t+1} = (1 + g_t) (1 + \pi_t) P_t Y_t\)だからです。
そこで、昔、ドーマーという人が、こう考えました。
名目政府債務残高が雪だるま式に増えていっても、名目GDPも雪だるま式に増えていったら、名目政府債務残高と名目GDPの比は一定になるよな。経験則的に、名目利子率と名目GDP成長率は近いから。名目政府債務残高と名目GDPの比が一定なら、財政破綻せずそのままいけるんじゃね?
と。数式ベースでいうと、経験則的に\(1 + i_t \simeq (1 + g_t) (1 + \pi_t)\)だから、\(\frac{B_t}{P_t Y_t}\)を一定に保つ方法がある。それは、
\(P_t G_t = P_t T_t\)だ!!!となります。これはドーマー条件と呼ばれています。
\(P_t T_t – P_t G_t\)を基礎的財政収支と呼び、\(P_t G_t = P_t T_t\)の状態を基礎的財政収支均衡と呼びます。要するにドーマーは、基礎的財政収支均衡であれば、政府債務が名目利子率の分だけ雪だるま式に増えていっても、名目GDPも雪だるま式に増えていくから、名目政府債務残高と名目GDPの比はずっと一定、つまり財政破綻しない!と考えたのです。
雪だるま式増加の弊害を防ぐ策②
ドーマー条件は、”政府債務(国民の資産)が雪だるま式に増えたとしても弊害が起こらないようにする”ための十分条件と言えます。名目政府債務残高と名目GDPの比が一定なので、財政破綻は起こりません。
ですが、ここで考えてみてください。必要十分条件ですか?と。
実は違うのです。
というのも、ドーマー条件は、以下の式をベースに考えているからです。
\(B_{t+1} = (1 + i_t) B_t + P_t G_t – P_t T_t\)これは違うってさっき言いましたよね?正しくは
\(B_{t+1} = (1 + i_t) B_t – i_t B_{CB,t} + P_t G_t – P_t T_t\)こっちが正しいって言いましたよね?
そうなんです。
ドーマー条件は間違ってはない(つまり、十分条件である)んだけども、必要条件ではないんです。
だって中央銀行が利子分返してくれることを考えると、利子分返してくれることを考えない場合よりも、財政ってグンと楽になるはずなんです。ドーマー条件はそれを考えてないから、必要以上に厳しい条件となっているんです。だから、必要条件ではないんです。ドーマー条件は、過剰なんです。
じゃあどうすればいいのか?
ドーマー条件なら
\(P_t G_t = P_t T_t\)にすべきだと言ってました。
でも正しくは、
\(P_t G_t = P_t T_t + i B_{CB,t}\)にすべき、なんです。こうするだけで、わざわざ\(P_t G_t = P_t T_t\)をしなくても、名目政府債務残高と名目GDPの比は一定を保つことができます。
つまり、\(i B_{CB,t} > 0\)ですから、\(P_t G_t = P_t T_t + i B_{CB,t}\)さえ満たしていれば、\(P_t G_t > P_t T_t\)で構わないんですよ。
ようするに、政府は基礎的財政収支の赤字を垂れ流したとしても、名目政府債務残高と名目GDPの比は一定に保つことができる場合がありうるんです。
政府は基礎的財政収支の赤字を垂れ流したとしても、名目政府債務残高と名目GDPの比が一定に保てればOKなんです。
つまり、”政府の借金は、絶対に税金で返さないといけない”ということは、ないんです。つまり、”政府の借金は必ずしも次世代からの前借りである”というわけではないんです(常に違うとも言ってない)。
この記事をみて、古典的なドーマー条件をベースにした時代遅れの議論や、”政府の負債は国民の資産”という念仏だけの議論も、もうやめにしませんか。