社会的厚生関数

このツイートを解説しておきます。

社会的厚生関数というものがあります。

めちゃめちゃ簡単にいうと、「人間社会が社会厚生を最大化するように動いていく中で、社会厚生をどのように測るか」を表現するものです。

数式でいうと、人間社会が\(W\)を目的関数として、最大化するように動いて行く中で、

\(\max W\)

この\(W\)が社会的厚生関数であり、\(W\)をどのように定義すべきかという議論になります。

ベンサム型社会的厚生関数

いわゆる功利主義を数式化したものになります。「最大多数の最大幸福」の言葉のとおり、この社会的厚生関数においては社会厚生は「各個人の効用の総和」と定義されます。シンプルですね。ベンサムは功利主義の創始者の名前です。

\(W=\sum_{i=1}^N U_i\)

簡単化のために\(N=2\)にすると以下のようになります。

\(W=U_1+U_2\)

ナッシュ型社会的厚生関数

総和ではなく総乗にしたものがナッシュ型と呼ばれます。

\(W=\prod_{i=1}^N U_i\)

簡単化のために\(N=2\)にすると以下のようになります。

\(W=U_1 \times U_2\)

たとえば\(U_1=100,U_2=1\)の場合と\(U_1=70, U_2=31\)の場合を考えると、ベンサム型の場合は前者も後者もともに\(W\)が同じ値となるのですが、ナッシュ型だと\(W\)は後者の場合のほうが大きくなります。

※1.注意したいのは、ここでの社会的厚生関数は「序数的」なものであり、値そのものに意味はなく、値の大小関係のみに意味をもちます。

※2.ある社会的厚生関数の\(W\)と、もう一つの別の社会的厚生関数の\(W\)を比べることはできません。比べられるのは同じ社会的厚生関数の社会厚生の大小関係のみです。

このように、ナッシュ型社会的厚生関数はベンサム型よりも若干、効用格差を考慮した社会的厚生関数となっています。

ロールズ型社会的厚生関数

正義論」で有名なロールズの名前を関した社会的厚生関数です。

\(W=\min(\{U_i\}_{i=1}^N)\)

簡単化のために\(N=2\)にすると以下のようになります。

\(W=\min(U_1,U_2)\)

たとえば\(U_1=100, U_2=1\)なら\(W=1\)になりますね。

「社会主義的」と言われることもあるように、かなり格差に対して敏感な社会的厚生関数であるということがわかると思います。

一般化表現

じつはこのベンサム・ナッシュ・ロールズ型の各社会的厚生関数は、一つの式でまとめて表現することができます。その式が以下です。

\(W=\frac{\sum_{i=1}^N U_i^{1-\rho}}{1-\rho}\)

ここで\(\rho\)は不平等回避度と呼ばれます。

簡単化のために\(N=2\)にすると以下のようになる。

\(W=\frac{U_1^{1-\rho}+ U_2^{1-\rho} }{1-\rho}\)

不平等回避度を代入してみる

不平等回避度\(\rho \to 0\)を代入してみると、

\(W=\sum_{i=1}^N U_i\)

ベンサム型になりますね。

そしてなんとこれが、不平等回避度\(\rho \to 1\)を代入してみるとナッシュ型になり、不平等回避度\(\rho \to \infty\)を代入してみると、ロールズ型になります。

ナッシュ型になることの証明はロピタルの定理を使うとできます。

ロールズ型になることの証明は、社会的無差別曲線を描くことで示すことが出来ます。

個人的結論

「ベンサム・ナッシュ・ロールズのどの社会的厚生関数をとるべきか」、といったような議論は、「連続値である不平等回避度\(\rho\)をどのような値にすべきか」という議論と比べると「離散値」の議論であり、議論として下位集合のような議論である、ということを弊社内で話したりしました。

付録 ニーチェ型社会的厚生関数

ツァラトゥストラはかく語りき」などの著作、「永劫回帰」や「超人」の概念で有名な哲学者ニーチェの名前を関した社会的厚生関数もあります。

\(W=\max(\{U_i\}_{i=1}^N)\)

簡単化のために\(N=2\)にすると以下のようになる。

\(W=\max(U_1,U_2)\)