トークンエコノミーは分散化できるか

先日こんな記事を書きました。

トークンエコノミーとBFTエコノミーの比較

トークンエコノミーは集権的であるとの旨を書きましたが、分散化させたいならどうなるか、書いてみます。

オラクル

オラクルとはなにかというと、ブロックチェーンの外側の世界にある情報を、ブロックチェーン内に取り込んでくるシステムのことを言います。

先日の記事ではBFTエコノミーの例としてビットコイン(Proof of Work)を例に挙げましたが、あれがなぜ中央主体なしに機能するかというと、「誰もが検証できる」からです。

マイニングに成功しているかどうかは、オフラインでもできる暗号学的な計算をすることで、世界中の誰でも簡単に検証できるわけですね。

参考になるかも: Proof of Stakeのシンプルな実装の簡単な説明

一方で外部から入ってきた情報は簡単に検証することができませんし、オフラインで計算することもできません。

たとえばこんなスマートコントラクトをEthereum上でつくりたいとします。

  • 京都市の翌日の降水確率が50%以上の日はAliceにトークンを1単位発行し与える
  • 京都市の翌日の降水確率が50%未満の日はBobにトークンを1単位発行し与える

AliceもBobもググったりテレビや新聞を見れば検証することはできますが、一方でEthereumのノードはどうやって京都市で雨が降ったかどうかを検証すればよいでしょうか?

例えば

  • Charlieが運営しているノードはtenki.jpから京都市の天気を取得する
  • Davidが運営しているノードは気象庁から京都市の天気を取得する

としましょう。

この場合、たまたまtenki.jpは40%、気象庁が50%みたいになった場合、どうすればよいかわかりません。

また、気象庁の情報に関わらず毎日100%との情報を出すようなビザンチンなふるまいをする可能性もあるため、何が正しいか簡単に検証することができませんし、オフラインで計算することももちろんできません。

そのため、

  • 信頼できる第三者がブロックチェーン内に情報を橋渡しする集権型オラクル
  • どれが正しい情報かを合意してブロックチェーンに情報を取り入れる分散型オラクル

のどちらかが必要になってくるわけです。

参考: ブロックチェーンとインターネットの間でデータの橋渡しをするオラクルとは

で、「Etheruemのスマートコントラクトをつかって非中央集権なトークンエコノミーをつくるぞ!」と思った場合、「誘導したい行動をユーザーがとったかどうか」の情報を、先ほど説明したオラクルのような仕組みをつかって取得するような仕組みにしなければいけません。

ここで集権型オラクルを使えばその時点で完全な非中央集権ではなくなります。言い換えれば、技術的に敷居の高い分散型オラクルを導入しないといけません。

これがトークンエコノミーの障壁1つです。というかEthereumみたいなコントラクトプラットフォームでのプログラムを非中央集権化させたいときの最大の障壁でもある。

費用負担の帰着

トークンエコノミーはポジティブインセンティブを目的とし、BFTエコノミーはネガティブインセンティブを目的としていると書きました。

穿った見方をすれば、不正をすることへのネガティブなインセンティブは正常なふるまいをするポジティブインセンティブと同じですから、インセンティブにポジティブもネガティブもないということも言えるかと思います。

しかし実はけっこうこれは重要な観点でして、というのも、BFTエコノミーの場合、不正な挙動(ビザンチンなふるまい)をネガティブインセンティブによって防げればよいわけですから、不正でも正常でもない無関心・無関与に困ることはありません
一方でポジティブインセンティブによって行動を誘導したい(ALISなら良い記事を書くなど)トークンエコノミーにおいては、無関心・無関与でいられると困ります。行動を誘導したいわけですから笑

不正 無関心 正常
トークンエコノミー × ×
BFTエコノミー ×

これが、インセンティブの方向がポジティブかネガティブかで変わってくる大きなポイントです。

ここで、無関心・無関与から、積極的な関与への移行を促したいにもかかわらず、関与することに手数料をとっていてはその関与の行動を促すことが難しくなるという重大な壁にぶちあたります。手数料がネガティブインセンティブになってしまうわけですね。

トークンエコノミーを分散化させたいとき、手数料の高いEthereumのようなプラットフォームのオンチェーン処理は使ってられないということが考えられるかと思います。手数料のかからない独自の専用ブロックチェーンをTendermintでパパっと作るか、手数料無料なEOS使うか、などの選択肢を迫られるわけです。

参考: LotionJSをWindowsにインストールする方法!!!

ですがここで思い返してください。

トークンエコノミーとBFTエコノミーの比較

において、BFTエコノミーにおいてはプロトコルに使い道を組み込んで無価値化にならないようにしていると書きました。EOSは無価値ともご紹介しました。

え~・・・

手数料をとらない独自チェーン/コントラクトで、いつ使い道をつくるのでしょうか?つくれませんね。

無価値のトークンでインセンティブ発生させることができますか?できないですよね~~~。

え~・・・

考えられる対策は3つあります。

  • 手数料ありの独自ブロックチェーン/コントラクトだが、手数料は運営が肩代わりする
  • 手数料なしの独自ブロックチェーン/コントラクトだが、無価値化対策のために運営が主体的に価値づけをする
  • 中央集権的なオフチェーン処理をする

ですがこれらの対策、どちらも費用負担が運営に帰着するため、中央集権になってしまうのです。

ALISは実際、中央集権的なオフチェーン処理を多く行っており、サーバー代は運営が負担してるんでしょうねたぶん・・・

まとめ

分散オラクルは敷居が高い。

無関与が怖いトークンエコノミーでは手数料をとりたくないため、運営が関わらざるを得ない可能性が高い。

つまり、トークンエコノミーの分散化はかなり難しいと考えられる。

「トークンエコノミーによって非中央集権の時代!」などとの説は、現実を見なければならないかもしれません・・・

個人的にはトークンエコノミーはやはりブロックチェーンによる低コスト化のメリットを軸に応援していきたいなと思います。

余談

記事中のどっかに挟もうと思ったけど使い道がなかった。