Slackチャンネルも参加してください!

ケインズのBancorの真実

こちらのツイート、若干ながら説明の需要がありそうなので説明します。

Bancor(曖昧さ回避)

曖昧さ回避のためBancorといっても二つあることをまず整理しておきます。

  • ケインズの提唱した国家間当座借越システム「Bancor」
  • ICOしたことあるブロックチェーンのプロジェクト「Bancor Network」

ブロックチェーンのほう

まずそもそもこれがBancorを名乗る合理性に疑問符なんですが(合理性がないってだけで別に悪いとは言ってない)、これはまあみなさんもご存知の通り、ちょっとテクニカルなことをしているDEXみたいなものです。

とはいえケインズBancorのgoogleability(検索の容易性)を若干下げたので個人的には因縁がある(暴言)。

Bancor Networkの特色は、流動性不足の解消にあります。

端的に言うと、需給のマッチングによる価格決定をするのではなく、公式に基づいた部分準備金を担保に価格決定して、取引を行うものです。

詳細はネット探せばあると思うので割愛しますが、この端的な説明を頭の片隅に置いておいてください。ケインズのとは全く違うので、名前に合理性がないことがよくわかりますw

ケインズのほう

一次文献で言うと

Benn Steil, The Battle of Bretton Woods: John Maynard Keynes, Harry Dexter White, and the Making of a New World Order (Princeton: Princeton University Press, 2013), p. 143.

なる文献がよさそうなのですが、手を抜いた説明をしますと、wikipediaにも書いてあります。

バンコール – Wikipedia

仕組み

わかりやすさのため、日本とアメリカの例で説明します。

  • 日本とアメリカ間の取引はすべて円でもドルでもなく、「国債精算同盟(The International Clearing Union, ICU)」という機関を通じて、バンコールの単位に換算して決済しなければなりません。
  • バンコールは単位ではありますが紙や金属などの実体は発行されません。なので国際通貨にはなりません。ICUでの会計帳簿の単位として使用されます。
  • 貿易赤字が大きく、バンコールの借りがある一定基準を超えた場合、ペナルティがつきます。
    • 一定基準の定義は、過去5年間の平均貿易収支の1/2を超えているかどうか、とします。
    • ペナルティとして、ICUに対して利子を支払わなくてはいけません。
  • 貿易黒字が大きく、貿易赤字によりバンコールを借りている国に対してのバンコールの貸しが大きくなった場合も、ペナルティがつきます。
    • ペナルティとして、ICUに対して利子を支払わなくてはいけません。

文面的にはこれ以上簡易化した説明をするのは難しいです。

Bancorの効果

このような仕組みによって、どのような効果があるのかと言うと、

  • 貿易赤字国は貿易赤字を削減するために通貨安誘導をして輸出を増やすようになる
  • 貿易黒字国は貿易黒字を削減するために通貨高誘導をして輸入を増やすようになる

ということになります。

結果として、恒常的な貿易収支の不均衡(例えばアメリカのようにずっと一方的に貿易赤字を垂れ流すような状態)を防ぎ、貿易収支の不均衡が収束していくようになる、というわけです。

これがケインズの狙いでした。

したがってバンコールの目的は国際的通貨システムの創設ではなく、貿易の国際的な非関税障壁の側面を持っていたということができます。

IMFの特別引出権(SDR)も紙や金属のような実体は持たせていません。これはSDRの目的が、米国の経常収支赤字を喚起する「準備資産としての米ドル需要」を抑制するためであるからであり、国際的な通貨システムの創設を目的とはしていないからです。

その後皆さんご存知の通り、SDRを通貨とみなしたときの側面・システムが、リブラに焼き直されています。

根本的な話をすると、ケインズの時代から人類の国際経済の知識がアップデートされたのは金本位制の廃止程度であって、そもそも信用貨幣がなぜ流通するのかの説明がアップデートされておらず、循環論法(みんなが受け取るから受け取る)に依存したままであるというのが、冒頭ツイートの楠さんが指摘するように似たような面白くないシステムが焼き直されてくる理由でしょう。

「みんなが受け取るから受け取る」といっても、「循環に突入するための最初の起爆剤がなにか」という説明を租税貨幣論は与えるわけですが(つまり循環論法を根拠として租税貨幣論を否定することは論理的に不可能)、経済学者ですらまだその認識をされていない方も十分多くいらっしゃいます。

CBDCの議論がさらに面白くなってくるのは、人類の貨幣への知識がアップデートされてからでしょう。

イキった文体になっていますが、人類の貨幣への知識のアップデートはそれほどに遅いのです。