コクランのFTPL~1/n(ただしn>1とは限らない)

The Fiscal Policy of the Price Level(FTPL)の壮大なまとめ本pdfを、John H. Cochrane(以下コクランと呼ぶ)が今年(2021年)の2月27日に出していました。

https://static1.squarespace.com/static/5e6033a4ea02d801f37e15bb/t/603a7b0c58b15d5dd4c40a58/1614445328749/fiscal_theory_posted_2_26_2021.pdf

631ページあるので全部読むのは相当にきついですから、要点だけをできる限り高い精度で整理したいと思います。

既存理論との違い

第一章の要点は、インフレーションを説明する既存理論との違いです。それらは以下の貨幣価値に対する観点で大別されます。

  • 兌換の担保による貨幣価値ビュー
  • 不換でありながらなぜか生まれる貨幣価値ビュー
  • テイラールールに従っとけばなぜかインフレにならないビュー

論理的に同階層な区別にはちょっとみえない(個人的に違和感があった)のですが、FTPLはこれら理論と違うよということを強調します。

基本モデル

第二章では基本となるモデルが数式で説明されます。といっても基本モデルなので複雑ではありません。

最も基本的な式では、

[latex]P_t s_t = \tau P_t y_t[/latex]

という形で名目税収を定義しています。

  • [latex]P_t[/latex]…物価水準
  • [latex]s_t[/latex]…実質財政黒字(財政支出なしを仮定しているので税収と同じ)
  • [latex]\tau[/latex]…比例所得税率
  • [latex]y_t[/latex]…実質総生産
[latex]t[/latex]は日単位であり、[latex]B_{t-1}[/latex]は前日末時点で保有している債権(bond)とします。一日の始まり(以後日初という)に、債券1単位につき政府は1単位の現金を刷ることで返済します。

この後が少しだけ引っかかりやすいところなのですが、加えて、誰も不換で価値をもたない現金は持ちたがらないので、日末に現金はすべて税金として回収されるという考え方を設けます。

結果として

[latex]B_{t-1} = P_t s_t[/latex]

という数式ができます。これが基本となる均衡式です。

これは著者注なのですが、ここは哲学的には非常に要注目なポイントです。というのも、「貨幣は税金としての徴収に備えなければならないから受け入れられ、流通する」という租税貨幣論とは、少し違うのです。あくまで「fiat(不換紙幣)は誰も受け取りたがらない」という観念を保ったままの世界観で、税金をモデルに組み込んでいます(貨幣価値についての結論はこれとはちょっと違う感じでまとまる。後述)。

さて、話を戻すと、これによりどのようなインフレメカニズムを説明するかということが大事なわけですが、以下のように説明されます。

  • 物価が安すぎると、税金で回収される名目額が小さくなり、回収されず余った金を人々は消費に回し、総需要>総供給となって物価が上がる。
  • 逆も然り。

非直感的と思う方もいるかもしれませんが、ロジックとしては貨幣数量説に近いです。

重要な単語として、受動的財政政策というのがあります。

任意の物価水準[latex]P_t[/latex]に対して政府は実質財政黒字[latex]s_t[/latex]を動かすことで均衡式を満たすようにすることを指します。能動的財政政策というのは、均衡式を満たすような決め方をせず、自由に実質財政黒字[latex]s_t[/latex]を決めること、となります(物価が調整されることで均衡式が成り立つ)。

これ以降出てくる式はだいたいが異時点への拡張とか、債券価格を盛り込む、みたいな、”よくある”拡張ですので、この基本部分さえ押さえておけば理解に苦労するようなところは特にないと思います。

三章以降の構成

三章以降は以下のような構成になっています。

  • 4: 一般性の付与
  • 5: 負債、財政赤字、割引率、インフレ率
  • 6: 写実化
  • 7: 財政制約
  • 8: 長期債の動学
  • 9: 資産選択
  • 10: より良い政策ルール
  • 11: 世の中の資産の種類
  • 12: 金融政策
  • 13: 利子率ターゲティング
  • 14: 金融法制
  • 15: 歴史というか、ちょっとした小話(ヘリコプターマネーなど)
  • 16: 歴史、哲学など
  • 17: ニューケインジアンモデル
  • 18: 価格硬直ニューケインジアンモデル(筆者注: 章のタイトルは16との違いが謎)
  • 19: 受動的財政政策+利子率ターゲティング
  • 20: ゼロ金利制約
  • 21: マネタリズム
  • 22: FTPLの過去と現在
  • 23: FTPLのこれから

ほとんどの章を最初のさわりだけは読んだしだいたい読んだ章もあるのですが、膨大すぎて記述が面倒(オイ)なので、今回では紹介はそろそろ終わりにします。気が向いたら第二回みたいな記事で続きの章のうち重要そうなところだけ紹介していきます。

とはいえ読んでいて思ったのは、パパっと理解するだけなら圧倒的にこちらのペーパーのほうがはやいです。短めの分量の中で受動財政/能動金融や能動財政/受動金融といった、重要なパーツが抑えられています。

記述が面倒ということだけではなくて、これだけの分量をすべて読み込む熱量も維持できそうにありませんでした笑。難しいとかそういうのはあまりないのですが、読んでいて貫通感というか、刺激があまりないと思ってしまったのですよね。哲学的な含意としてもなんだかどっちつかずというか、「貨幣価値は政府の財政黒字の配分を受け取る権利からきていると言えるかも」という結論になったとして、「政府の財政黒字の配分の価値はどこから?」っていう新たな問いが生まれてきます。このへんがあまり刺激的でないと思ったのですよね。論理的には貨幣価値の共同幻想論に依拠することになるのかな。

刺激があまりないことに関してももう少し言語化できれば後ほど書き足そうと思います。