前澤社長のお年玉企画にまつわって、「ベーシックインカム」の議論が再燃しています。
すでに先人がやり尽くした議論を再燃させるのが人間の性なのですが(この性質の善悪に言及するものではありません)、やはりすでにやり尽くされた議論が再燃しているなあと思うわけで、この機会に纏めておこうかと思います。
末にもあるように、まったく新規性のない記事ですが(議論自体に新規性がないのでw)まとめとしてお使いください。
そもそもベーシックインカムとは?
ベーシックインカムとは、無差別に国民※全員に定期的に最低保証となる所得を給付するという政策です。これはわりと知られ尽くしているので言うまでもないでしょう。
※国民だけでなく住民にも与える考え方もありますが本筋ではないので割愛します。
重要なのは、無差別に、という点です。つまり貧しい人だけでなく豊かな人にも給付します。
ベーシックインカムで、生活保護のような最低限度の生活を保証する社会保障を置き換えることが想定されています。
メリット
メリットも知られ尽くしているので詳細な説明は省きますが、簡単にメリットについて触れておきます。
メリット
- 社会保障制度の単純化
- 生活保護などで構成される複雑怪奇な社会保障をベーシックインカムに一本化することで、わかりやすくしたり、無駄な手続きを省いたりすることができる
- 生活保護は、恥辱性や名誉といった問題があるため、それらを解消できる
- 労働が、生きるための労働ではなく自己実現のための労働になる
- 働かなくてもお金が手に入るから
- 再チャレンジ可能な社会にしやすい
- 仕事をやめて勉学に再挑戦したりしやすい
また、懸念点も触れておきます。
- 財源はどうするのか
- 勤労意欲が低下するのではないか
- 富裕層にも給付するのは無駄ではないか
- 反社の資金源になるのではないか
- ベーシックインカムを担保とした貸付のようなフィンテック事業いわゆる「貧テック」が出てくるのではないか
勤労意欲に関して
ベーシックインカムと勤労意欲に関して人間はすでに議論をしつくしていて、議論だけでは答えは出ません。実証実験をしなければ生産的な議論にはならないでしょう。
一応、フィンランドでの実証実験があります。
「ベーシックインカム」の実験 フィンランド政府が無条件で月約7万円を配布
しかしながらこの実験は数多く問題点も指摘されていて、結論を出すには早計であることがわかります。
構造的な欠陥を指摘する声も…フィンランドのベーシックインカム実験は失敗だったのか
反社の資金源や貧テックといった議論
これも人類繰り返してますが、これは論理的にはベーシックインカムの是非とは筋が違う議論です。
基本的なベーシックインカムに加えて、反社の資金源対策や貧テック対策などのオプションをつけた政策にすればいいだけだからです。
財源の問題や、豊かな人にも配るのは非効率という議論
前澤社長の件でも元気に再燃しているのがこの議論です。
「豊かな人にも給付する」社会保障が無駄だというのは、直感的には誰でもそう思うでしょう。
しかしこれ、実はなんの意味もない議論です。
というのも、ベーシックインカムは累進税と組み合わせると、「負の所得税」と同等になるからです。
負の所得税も一応解説しておくと、累進課税の所得税において、ある一定基準よりも低い所得の人には、マイナスの税率を課す(つまり税金回収じゃなく給付する)というものです。
こちらは、負の所得税の効果をグラフにしたものです。
青線が税処理前の所得で、赤線が税処理後の所得になります。ピンクの領域が税収分で、緑の領域が給付分となります。
これがベーシックインカムとどこが同じなの?と思うかもしれません。
ベーシックインカムをこのグラフで表現するとどうなるかというと、
まず青線の処理前所得が、ベーシックインカム給付によって上方シフト(上に平行移動)します。黄色の線で表現します。
つぎに、累進課税によって黄色の線の傾きが変化し、緑線のようになります。
完全に赤線と同じになります。
要約すると、ベーシックインカムは累進課税があれば負の所得税と分配額の面では同等になるので、豊かな人に給付するのが無駄、豊かな人に給付するための財源はもっと無駄という議論は分配の面では意味を持ちません。
分配の面以外でなんの違いがあるの?ということですが、
負の所得税だと
- 人の所得に応じてお金の回収か給付か切り替えて手続きする処理をする
のに対して、ベーシックインカムだと
- 切り替えとかなしに一括で人に給付する
- 所得に応じて今まで通り税金回収する
というように、手続きの面で違いが出るほか、
負の所得税だと
- 処理後に所得が増える人には給付のみ、処理後に所得が減る人には回収のみなのでお金の移動は最小になる
ベーシックインカムだと
- どうせあとで回収される人に対してもまず給付をするのでお金の移動は多くなる
というように金の移動の面で違いは当然ながらあります。財源の問題も、最終的な金の分配は負の所得税と同じであるが、政府が扱う額面が変わるだけということになります。いずれにせよ、分配面では意味のない議論になります。
ポストケインズ経済学の提唱するJGP(Job Guarantee Program)との比較を織り交ぜたり、ヒトの働き方(コンピュータに任せたほうがはやいものは任せたほうが良い)にも踏み込んだりして、もっと新しい議論が出てくると良いですね。
まったく新規性のない記事ですが(議論自体に新規性がないのでw)まとめとしてお使いください。