法定通貨・仮想通貨の価値を数式で考える

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先日このような記事を書きました。

ブロックチェーン時代の貨幣論

PoW通貨も、共同幻想

前者においては、金本位制は経済学的によろしくないので、ゴールドの再発明である暗号通貨も「世界通貨」にはなりえないことを説明しました。今のゴールドも通貨にはなっておらず資産の1種にとどまっています。

後者では、「PoW電気代価値説」は正しくないため、正しい表現を提案しました。ゴールドもビットコインも、採掘にかかるコストが価値の裏付けになるというのは正しくなく、ブランド性があることによって需要が出ているわけです。(ブランド性は一種の共同幻想です。)

ビットコインと仕組みが全く同じの暗号通貨が大量発生して、PoWで採掘にコストがかかっていても、価格はビットコインほどにはならないでしょうし、価値を見出す人も少ないでしょう。PoW通貨は必ずブランド性を持つわけではないですよね。(それくらい直感でわかりますよね?)

ビットコインやゴールドにはブランド性があるから価値を見出す人がいるのです。PoWそのものに価値を裏付ける機能はありません。PoWには通貨に価値を内在させる機能はありません。

(何度も言いますが、価格は需要供給の妥協の結果で、価値は需要の程度です。)

このような当たり前の事実を何回も言っているのですが、仮想通貨の議論に経済学を持ち込むトップランナー(自称)のぼくに世界が追い付いてくる気配が全くありません(暴言)

言葉よりも数式のほうが厳密に説明できるので数式で説明します。

この記事には効用関数の理解を必要とします。

調べればわかると思いますし、調べてもわからないという方は

仮想通貨のための経済学~効用~

を読んでください。わかる方は買わなくて大丈夫です。

需要関数

価格と価値は違うと説明しました。

わかる人にはわかるかと思いますが、財\(i\)の需要関数は

$$ D_i=D\left(p_i, U\left( x_i \right) \right) $$

となります。\(p_i\)は価格、\(u\left(x\right)\)は効用関数、\(x_i\)は財\(i\)の量です。

とある価格での需要量は、価格と、効用の大きさに依存するということです。

この効用の大きさが価値です。

価値が大きいほど価格が同じでも需要が上がり、同じ価値でも価格が大きいほど需要が減ります。

価値を考えるには効用の大きさを考えれば良いことになります。なので効用について詳しく見ていきます。

ゴールド

まず一番簡単なゴールドから。ゴールドの効用は、主にブランド性からくる効用と、投機の効用だと思います。ここでは「価値貯蔵」も投機に含めます。

$$ U\left(x_{gold}\right)=U_{brand}\left(x_{gold} \right)+U_{speculation}\left(x_{gold} \right)+U_{others}\left(x_{gold}\right) $$

なのでわかりやすくするためこのように項をわけます。othersは誤差項と考えてください。

ブランド性というのは共同幻想の一種ですから、「価値が内在する」とは言えません。ファンダメンタルにはなりません。

ビットコイン

ビットコインの効用は、送金サービスの効用と、ブランド性からくる効用と、投機の効用があると思います。

$$ U\left(x_{btc}\right)=U_{service}\left(x_{btc} \right)+U_{brand}\left(x_{btc} \right)+U_{speculation}\left(x_{btc} \right)+U_{others}\left(x_{btc}\right) $$

PoW自体には価値を内在させる機能はありません。世界初の暗号通貨であるビットコインのマイニングに金採掘を連想させることでビットコインにブランド性を持たせた可能性が大いにありますが、ビットコイン以外の通貨に採用したところでブランド性を与えるとは限りません。

また、ブランド性も共同幻想の一種ですから、電気代がファンダメンタルになることはありえないですね。

ETH・XEM

EthereumのETHやNEMのXEMはビットコインほどのブランド性はありません(PoSだからではないです、ビットコインが一番手だからです)。ETHやXEMの効用は、ブロックチェーンサービスの効用と、投機の効用があると思います。

$$ U\left(x_{eth}\right)=U_{service}\left(x_{eth} \right)+U_{speculation}\left(x_{eth} \right)+U_{others}\left(x_{eth}\right) $$

$$ U\left(x_{xem}\right)=U_{service}\left(x_{xem} \right)+U_{speculation}\left(x_{xem} \right)+U_{others}\left(x_{xem}\right) $$

こう分けられます。

イーサリアムのサービスはチューリング完全なコントラクトを記述でき、NEMのサービスは難解なプログラムを理解しなくてもブロックチェーンの恩恵を受けることができるので、ビットコインの送金サービスよりも効用が大きいと考えられる(直感的にそうですよね?)ので、

$$ U_{service}\left(x_{btc} \right) < U_{service}\left(x_{eth} \right)  $$

となることは考えられます。でも、

$$ U_{brand}\left(x_{btc} \right) > U_{brand}\left(x_{eth} \right) $$

であることも事実ということですね。

ALIS

このままではALISはコケる

に書いたように、ALISトークンの使い道がないままでは、

$$ U\left(x_{alis}\right)=U_{speculation}\left(x_{alis} \right)+U_{others}\left(x_{alis}\right) $$

投機以外に効用がない状態でした。この状態では「売り抜く」ことが最適戦略となるので、無価値になることが均衡になります。

ALISトークンは有料記事への支払いに使えるようになるらしいので、

$$ U\left(x_{alis}\right)=U_{service}\left(x_{alis} \right)+U_{speculation}\left(x_{alis} \right)+U_{others}\left(x_{alis}\right) $$

ぼくが指摘した問題は解決されました。

EcoBitは相変わらず\(U_{service}\left(x_{ecob}\right)=0\)です。

SCAMを見抜け!~ecobit編~

SCAMを見抜け!~NoahCoin編~

株式

株式は、議決権とか、投機(キャピタルゲインだけでなくインカムゲイン含む)の効用を得られますよね。

インカムゲインは目に見える効用なので、ファンダメンタルとして導出することができます。

$$ U\left(x_{stock}\right)=U_{right}\left(x_{stock} \right)+U_{speculation}\left(x_{stock} \right)+U_{others}\left(x_{stock}\right) $$

借用証書

借用証書とはいっても、本物の債権だけでなく実はいろんなものが実質は借用証書です。

銀行預金や、SUICAやICOCAなどのプリペイドカードの残高などです。

これらの効用は

$$ U\left(x_{iou}\right)=U_{service}\left(x_{iou} \right)+U_{others}\left(x_{alis}\right) $$

債務者が返してくれるサービスの効用そのものとなると考えることができます。

預金のように現金を返すサービスにおいては、預金残高を持つ効用は現金を返してくれるサービスの効用です。

法定通貨

現代の法定通貨は金本位制をとっておらず、不換紙幣です。これらの効用は

$$ U\left(x_{fiat}\right)=U_{service}\left(x_{fiat} \right)+U_{speculation}\left(x_{fiat}\right)+U_{others}\left(x_{fiat}\right) $$

となります。外国為替市場を見れば、投機の効用があるのはわかりますよね。

じゃあサービスってなんなのか!?ですよね。その答えはここに書いてます。

ブロックチェーン時代の貨幣論

おわかりでしょうか?法定通貨を支払えば、脱税の罪を免除してもらうというサービスを受けることができます。

脱税罪で捕まる効用は間違いなく大きなマイナスですよね。国家は、警察組織を使い、脱税に対してマイナス効用を生み出すことによって、法定通貨に「マイナス効用を避けられる」という効用を生み出しているのです。

大事なことなので貨幣論に書いたことと同じことを言いますが、法定通貨は負債・借用証書ではないんですよ

カウンターパーティーリスク

この\(U_{service}\left(x\right)\)項は、サービス提供者がいなくなるとゼロになります。

借用証書に顕著です。

たとえば、(預金保険を考えなければ)銀行が倒産すれば預金残高の効用はゼロ、つまり無価値になります。

このリスクをカウンターパーティーリスクといいます。

特定の中央組織にカウンターパーティーリスクが存在することを仮想通貨界隈の人たちはトラストフルと表現したりします。

暗号通貨には特定の中央組織が存在しませんので、トラストレスと表現されたりします。

法定通貨はトラストフルか

さらに、法定通貨にも国家という中央組織によるカウンターパーティーリスクが存在し、法定通貨が無価値になる=ハイパーインフレになることを恐れている人が多いと思います。

ですがこれはそこまで心配するほどのことでもありません。説明します。

借用証書

借用証書なら\(U_{service}\left(x_{iou}\right)\)項にはカウンターパーティリスクがあり、さらに心配するほどのことです。なぜなら、

サービスで返すことを踏み倒すメリット>サービスで返すことを踏み倒さないメリット

という条件を満たすなら債務者は踏み倒しますが、借用証書においてはこの条件を満たす状況は起きやすいからです。

ですが先ほども言いました。法定通貨は借用証書ではありません。

法定通貨

さらに、

サービスで返すことを踏み倒すメリット>サービスで返すことを踏み倒さないメリット

において、法定通貨の「サービス」とは何か?先ほど説明しましたよね。「脱税の罪を免除してもらう」というサービスです。

国家が、「脱税の罪を免除するサービスを踏み倒す」、つまり納税してもらったにもかかわらず脱税の罪にかけるインセンティブがあるでしょうか?

無いですよね?このまま働かせて納税させ続けるインセンティブのほうが強いですよ。

つまり、法定通貨においては

サービスで返すことを踏み倒すメリット>サービスで返すことを踏み倒さないメリット

となるような状況は起きえないのです。

いわば、分散型組織かどうかの文脈においては法定通貨はトラストレスではないですが、カウンターパーティーリスクを心配する必要があるかどうかの文脈においては法定通貨にトラストは必要ありません。不換紙幣って、国家に対してもうまいことインセンティブ与えてるんで、その点でもよくできた仕組みなんですよ。

まとめ

  • 仮想通貨の価値は、この数式をみるとわかりやすいかも
  • EcoBitや以前のALISは投機以外使い道がなく、投機でも売り抜くことが最適戦略で無価値が均衡であることは、この数式を見るとわかりやすいかも
  • カウンターパーティーリスクを心配する必要があるかどうかの文脈においては法定通貨にトラストは必要ない。法定通貨をマイルドなインフレにさせる動きはある(デフレ脱却し景気をよくするためなのでこれは必要)が、ハイパーインフレにさせるインセンティブは国家には無い

仮想通貨は、ビットコインのようなブランド性を持つものはブランド路線で行けばよいと思いますが、それ以外の仮想通貨は電力を浪費しないコンセンサスアルゴリズムを使い、もっぱらブロックチェーンのインセンティブ設計の用途に限るべきでしょう。法定通貨と同じ土俵に立たないほうが良いです。

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